「蜂に刺されて」
海岸沿いを、風に吹かれて四日間歩いた。
能登の空は、よく雲がこづんでいた。
旅は久しぶりであった。テントを準備せず、ハマナくんに頼ってしまったり、けれども一人用テントでは寝苦しく結果、浜辺で一人きり雑魚寝をしたり、僕としては相変わらずのどこにでもの旅であった。
旅をはじめた当初より、僕たちはだいぶ年を取った。それでも、輪島の居酒屋ではずっと学生と間違えられていた。気ままな二人に見えたのだろう。けれども、抱えているものは学生の頃とは違う。若造に見られがちなので、もっと貫禄をつけた方が良いよと言われたこともある。しかし、僕としては若造に見られようがどうでも構わない。若造じゃないってことではない。人によって目指す真実はそれぞれ違うのだ。
何を信じて良いか分かりにくい時代に生きていると思う。僕にとっては、若造の話ではないが、真実は一つきりである。僕が信じていることが真実そのものである。
学生の頃、時代小説を読み過ぎていたせいか、世界を自分の力で変えれると思っていた。かなりバカみたいな話だけど、けっこう深刻に僕は信じていた。それから10年近く経ったが、広義な意味での世界は僕の力では、さほど変わっていない。けれども、僕の世界は確かに僕の力で変わった。
若造まだ風に吹かれている。雑魚寝もする。蜂にも刺される。若造は最近、大相撲が好きになった。石川県出身の遠藤を応援している。
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