「鼻行類」という本がある。鼻で歩く奇妙な生き物を記述した本だ。鼻行類にはその性質、生き方が細かく書いている。解剖図まである。ところがこの生き物は本来存在しない。いない動物の話をあたかもいるように考え示している。人間は理屈が通ると実証されなくても信じる。そういう、いわば理論生物学ともいえる話を、ハラルト・シュテュンプケというドイツ人が考えた。日高敏隆さんはこの本を翻訳した。真に受けた学生や大学教授もずいぶんいた。そういう結果になることを、なぜあなたは研究者としてやったのか。はじめから嘘だと分かっているものをやるのは研究者としてよくないと怒られた。それに対して日高さんはこう答えた。人間はどんな意味であれ、きちんとした筋道がつくとそれを信じ込んでしまうということが面白かったので、そのことを笑ってやりたいと思って出したのです。私たちは滑稽な動物だということを示したかったのです、と言った。
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